五分ほどナルシシストの19歳の彼のまとまりのない話を聞いたところでストップをかけ、一見、筋道のある対話にもどした。
そこでいつ、イエスの救いを見い出したのか、と質問した。
なんでも、大学一年の半ば頃だという。
では、キリストがなぜデニーに聖霊をつかわし、代弁者にしたのかと話題を変えてみた。
それに対してデニーは、自分にもよくわからないけれど、神は、われわれが現実と考えている現実が本当の現実ではないことを、のちのちに知らせるためにではないかと、彼のいろいろな推理を説明しはじめた。
本当の現実とは、死後、天国か地獄によって示されるものだとも言った。
「ちょっと待った。今、生きているのは現実の世界ではないというのかい?」
「絶対ちがうよ。神さまは、われわれに試練の時を与え、来世に望ましいのは誰か、じっと評価していらっしゃるんだ」
「フーン、まるで神さまは宝くじを当てるみたいなことをやってるんだね」
「あなたも、ほかの人と同じだ。肉欲と退廃で腐りきっている。信仰を持った人達を惑わそうとしている。あなたには、ぼくの魂は理解できない。神と悪魔を見分けるのはむずかしいけれど、今の僕には直感でわかる」
そう言うと、また、しばらく深遠な神学の思索で私に説法を聞かせはじめた。
彼の言葉は一般にはナンセンスだったが、言葉以外におもしろい発見があった。
彼は私に喋りつづけていたのだが、ふと、私はその時、彼がひっきりなしに顔を撫でまわすことに気がついた。
そんな動作で自分の表情を覆い隠せるとでもいうのだろうか。
「なぜそんなに顔を撫でるの?」と、医師は聞いてみた。
彼は、それを聞くと、ギクッとして、「どうってことないよ。悪い癖さ」と答えた。
「何から隠れようとしているの?まるで、神さまがこの現実でない世界でキミにお与えになったその顔が気に入らないみたいだね」
これには、さすがあの彼も黙ってしまった。
どうやら、図星だったらしい。
「でも、でも、気にならない?ニキビだらけなんだ。みっともないだろ?」
みるみる涙が目に滲んだ。
「みんな、醜いと思わないかもしれないけれど、自分ではちゃんとわかる。
それがどんなに醜いか、ボクにはわかっているんだ人付き合いが怖いんだ」
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「みんなって、誰のこと?」
「うん、ほかの人達のことだよ。みんなって、言うだろ?」
「いや、それだけでは漠然としていてわからないね。ただ私が思うに、キミが言っているみんなっていうのは、本当は女の子のことだね」
彼は一瞬、顔を赤らめて、こう言った。
「うん、まあ、そんなとこかな」
「女の子、好き?」
一段と赤くなって、「うん」。